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エスキモーのくにから
エスキモーの国から
中谷 宇吉郎
「文藝春秋」文藝春秋新社、1959(昭和34)年9月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 12,797 字 · 26 页
稀に希望者があっても、夏の間暫く行くだけで、一年間越冬して、連続観測をやろうというような篤志家は滅多にいない。科学的には、そういう資料が大切なのである。
昨年フランスのシャモニイで開かれた国際雪氷委員会の会議で、その話が出て、日本から科学者に二人行ってもらうことになった。それでこの四月、北大からK助教授とM助手とが、その島へ行って、もう観測を始めている。
そのうちM君の方は、少なくも一年、できれば二年でも三年でも頑張るといっている。
M君は妙な男で、昔から、北極か南極に住むことを、一生の念願にしていた。それで極地生活に身体を馴らすために、札幌にいても、冬中火の気のない部屋に住んで、湯は決して飲まず、水ばかり飲んでいた。そして生の肉や生の魚を食べる練習をしていたそうである。
ところで先日、T3からM君の手紙がきたが、それによると、全く当てがはずれて困っているそうである。第一部屋の中が暑すぎて、全く北極の感じがしない。それに食べ物は、北海道では滅多に食べられなかった洋食を毎日くわされる。夜は映画もある。これでは何のために北極へ来たのか、わけがわからない。