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カストリしゃじけん

カストリ社事件

坂口 安吾

「別冊オール読物」1948(昭和23)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,043 字 · 21 页

青空文庫

「イヤ、社長、そうじゃないです。私は、わが社の社長問題などには毛頭ふれておりません。あなたが、自分から、言われたのです。私は、二十万円のお詫びに、突くなり、斬るなり、お気のすむようにして下さい、と申したゞけです」

花田一郎は蒼白だ。後へは、ひかぬ。死ぬ覚悟である。

いきなり、グアッと、メリケン。花田のからだは、ふッとんだ。ぶッ倒れ、動かない。鼻血があふれてきた。片彦は慌てゝ、二三歩うしろへ忽ち、逃げのびて、

「オレは、違うですよ。単なる、立会人だからね。オレは、しかし、終戦以来、とても、運が悪くッて、こまッちゃうよ。オレ、先日、スシ屋で、ほかの男と間違えて、ケンカをうられて、違いますよ、オレじゃないよ、と云ってるのに、ポカポカなぐられちゃって、運が、わりいよ。オレのオフクロ、子供んときから、成田のオマモリなんか持たせやがって、それが割れちゃったりして、つまらねえことまで、ネザメが悪くって、どうも、気分がよくねえよ。人を、まちがえちゃ、いけねえなア。心細く、なっちゃうよ」

三分か、五分ぐらい、たった。国際親善紳士は、だまって、睨みつけている。

花田は、ぶっ倒れて、鼻血をさかんに吹きあげて、依然、目をとじたまゝ、微動もしない。