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ガラマサどん
ガラマサどん
佐々木 邦
「キング」1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页
或日の秘書室
さあ、我輩は困ったね。老人一人で持っていた家業だから後が続かない。しかしこれが又一転機だったよ」
「はゝあ」
「当時この会社の社長をしていたハイゼという独逸人が我輩を事務員に採用してくれた。十七円の月給だったが、これが出世の糸口さ。雑誌の方はこの辺にして置いてくれ給え。カギのことは書いちゃいけないよ。宜いかい? 熊野君」
と社長は念を押した。
或日の秘書室
コツ/\と戸を控え目に叩く音がする。社長室は誰にしても気兼だと見えて、入らない中から、もう態度を改める。私も平社員時代を思い出すと、謹んで廊下を通ったものだ。
「コツ/\/\」
「お入りなさい」
と松本さんが大きな声で応じた。松本さんは社長がいないと元気が好い。私も無論寛ぐ。
戸を開けて、
「社長は?」
と伺いを立てたのは販売課長の栗栖さんだった。
「たった今お帰りになりました」
「おや/\」
「栗栖が来たら待たせて置けって仰有いましたよ」
「はゝあ。それじゃ又お戻りか?」
「はあ」
「いつ?」
「明日の朝の十時頃」
「やったね」
「ハッハヽヽ。まあ、宜いじゃありませんか?」
と松本さんが請じた。
「忙しいんだよ。君達のように用がなくて困っている人とは違う」