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ゼーロン

ゼーロン

牧野 信一

「改造」1931(昭和6)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,533 字 · 29 页

青空文庫

余勢を喰って、私はあざみの花の中にもんどりを打った。然しひるまず私は息もつかずに跳びあがると、昔、シャムガルが牛を殺した直突の腕を、ゼーロンの脇腹目がけて突きとおした。ゼーロンは、歯をむき出していななくと、ハードルを跳び超すみたいな駆け方でピョンピョンと波型に飛び出した。私は地をすって行く手綱を拾うと同時に、二三間の距離を曳きずられながら走った後に綺麗に鞍の上に飛び乗った。そして、突撃の陣太鼓のように乱脈にその腹を蹴り、鬣に武者振りついて、進め、進め……と連呼した。

漸くゼーロンも必死となった如く、更に高ハードルを跳び越える通りな恰好で、弓なりに擂り鉢のふちを駆け続けて、いよいよ降り坂の出口にさしかかった。――振り返ってみると村の半鐘は出火の合図だったのである。地主の納屋のあたりに火の手があがって、旗を先頭におしたてた諸方の消防隊が手おしポンプを曳いて、八方から寄り集ろうとしている最中だった。ラッパが鳴る。喚き声が聞えて来る。折悪く井戸換の最中だったので、水が使えないので、火消隊の面々は非常に狼狽して、畦道の小川までホースを伸ばそうとしているらしい。