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トシオのみたもの
トシオの見たもの
岡本 かの子
「朝日新聞」1921(大正10)年4月21日~30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,531 字 · 21 页
人間は嬉んでそこへ棲み始めた。そのうちに、だんだんお腹がすき出したので、男は早速、神様の仰ゃったことを思い出し、空を仰いでお祈りを始めた。女もまた、地の上に伏して、お祈りした。すると神様は、直ぐにお聞きとどけになり、人間達の喰べ物として、海に魚を殖やしたり、野に穀物を植付けたり、それからまた、疲れた時には、樹立をつくり、草を茂らせて休ませたり、花を咲かせて慰さめたり、風を送って涼ませたり、その上、人間の欲しがるままに、いろいろな鳥や獣や虫の類まで、人間の友達として、備えて、おやりになった。人間は随分、幸福に平和に満ち、神様に感謝することを一刻も忘れずに、世界のあらゆるものと仲よくし乍ら、せっせと働いて棲み合ったため、運命の種子はいつも二つの甕のなかに、みずみずしく育って居た」
「お祖父さんその頃でも、綺麗な花が、汚ない土から、咲き出して居たのですか?」
「汚い? とんでもない。土が何で汚いものか、いまもフイルムで見た通り、土も立派に神様から戴いたものだ。汚いなどとその頃の人間は、決して思いはしなかった」
「では、そのころ、人間と仲の好かった獣達が、なぜ今は、山の奥などへ、立てこもって、人間に、歯向かったりするのですか」