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バルザックにたいするひょうか
バルザックに対する評価
宮本 百合子
「文学古典の再認識」芸術遺産研究会編、現代文化社、1935(昭和10)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,904 字 · 62 页
一八二五年、ロシアでは有名な十二月党の反乱が悲劇的終結をとげた年、愈々この出版事業にとりかかった二十六歳のバルザックは、自分から活字屋になり、印刷屋になり、本屋にまでなって悪戦苦闘したのであったが、この金銭争奪で未熟な事業家バルザックがその一身に受けた打撃は恐ろしいものであった。ブロックをつくってそろそろと、しかし確実に孤立した小資本の企業を食い殺す大資本企業家の悪辣な術策がバルザックを破滅させた。フランス全国の同業者等は、この唐突に現れた資本も少ない若年の一出版業者が、疑なく時流に投じるであろう出版計画をもっていることを見極めると、共通な悪計によって結束した。一万フランの資本をかけて出版した本の売上げが、一年にやっと二十部という目にあわした。たった三年の間に、十二万フランの負債をしょったバルザックは、遂に力つきて、美しい出版物を紙屑のような価で投げ売りにした。その時を計画的に準備し、待っていた同業者共は、労さず数万の利益を得たのである。
この恐るべき三年間を始りとして、バルザックは終生近代資本主義経済の深奥のからくりにふれざるを得ない立場におかれるようになった。