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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
梅崎春生『ボロ家の春秋』。同一底本的分册已合并为一书。收入:ボロ家の春秋、Sの背中、黄色い日日、記憶、蜆、庭の眺め、凡人凡語。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 页
ところが野呂はそれを特に感謝する風でもなく、至極あたり前の表情で、時には僕に指図がましい口まで利くのです。この椅子を持てとか、これはこわれやすいから大切に運べとか、そんな具合に命令する。好意で加勢してやっているのに身勝手なことを言うなと思ったけれども、とにかくすべてを運び入れました。ところがそこで一悶着起きた。運び入れた洋服箪笥や机のたぐいを、野呂がせっせと中央の板の間に据え始めたものですから、僕が一文句をつけたのです。
「板の間にあまり置かないで呉れ。西の四畳半に置けばいいじゃないか」
野呂は顔を上げて、じろりと僕を見ました。
「そんなことを指図する権利が、一体君にはあるのかい」
「あるんだよ」
そして僕は、僕と不破との間にかわされた板の間共同使用の約束を、野呂に説明してやりました。すると野呂は口をとがらせて言いました。
「だって、そんなこと、契約書には書いてなかったじゃないか」
「書いてなくっても、そういう口約束になっているんだ」
「そりゃおかしい。ウソだろう。ふつう間借人なんてものは、一部屋だけに決ってるものだよ。それを不破氏がいないからと思って――」