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マクシム・ゴーリキイのひとおよびげいじゅつ

マクシム・ゴーリキイの人及び芸術

宮本 百合子

「婦人公論」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,075 字 · 30 页

青空文庫

子供らは、家の中にいる時は大人の喧嘩にまき込まれ、往来での遊戯は乱暴を働くことであった。土曜日ごとに、祖父が子供らを裸にしてその背を樺の鞭で打った。これは一つの行事である。ゴーリキイはその屈辱的な仕置に抵抗して、とうとう気絶し、熱をだして病気になるまで鞭うたれたことさえある。

一八六一年にアレキサンダア二世が欺瞞的な農奴解放を行い、ゴーリキイが生れた時分、もう農奴制そのものは廃止されていたけれども、二百五十年にわたったロシアの農奴制によってしみこんだ封建制は、家庭の内に信じられない父の専制、主人と雇人との間の専制主義となって残っていた。ゴーリキイの祖父の家の中の生活は、その息づまるような標本なのであった。

熱に浮かされるような恐ろしい生活の中で小さいゴーリキイの心は自分や他人の受ける侮蔑、苦痛に対して鋭く痛み、人間の生活についての観察を学び、一生を通じて彼の特質をなした真理を求める熱情が既に目覚め始めたのである。

この時代、ゴーリキイに最も強い影響を与えたのは、祖母アクリーナの素晴らしい存在である。あらゆる憎悪、衝突、叫びのうちに暮して、祖母さんだけはすきとおるような親切、人間の智慧に対する希望、生活の歓びを失わなかった。