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ひとつのできごと

一つの出来事

宮本 百合子

「大観」1919(大正8)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,024 字 · 23 页

青空文庫

晴やかな朝の日光を吸って、ホヤホヤと毛(け)ばだった荒削の板の、無表情な図々しさ。非常な淋しさと不思議な憤りに私は凝(じ)っとしていられないような気分になってしまったのである。

「そんなものをなぜ拵えなければならないの、私はほんとに厭だ、ほんとに――。どうしても拵えなければ駄目なの?」

下を向き続けて赤味の上った顔を擡げながら彼は板を持って卓子の前に来た。

「若し誰が上っても拘(かま)わないなら拵えないで好いのですよ。けれども若しそれが厭ならどうにかしなければ仕方がないでしょう」

「それはそう。だけれども厭だとはお思いなさらない? もうさっきああやって、私共が気が付いたことが分ったんだから、もう気が引けて止めはしないか知ら」

「そんな敏感なら始めからやりますまい。どんな人間だって心を持っている者は、こんなことをしたいと思うものですか、けれども考えて御覧なさい、留守の間に子供達に部屋中掻きまわされたり、好い気になって下の連中が時を拘わず勉強しているところへやって来られたとしたら、お話にもならないじゃあありませんか? そうでしょう」

それはもちろんそうである。