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いちにんならじ
一人ならじ
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,312 字 · 21 页
そしてその下に栃木大助を指名したが、これは東堂舎人助もおなじ意見だった。「さぞよろこぶであろう、……」そう云ってすぐに大助を呼んだ。
仔細を聞かされた大助はかくべつ感動したようすもなく、いつもよりいっそうつよく唇をひき結んだだけで、黙々と与えられた位置についた。そして間もなくこの奇襲の攻撃は決行された。
数日まえに雪が降って、戦場はなかばぬかるみだった。高折又七郎の指揮する、栃木大助以下五十人の先鋒隊と、それを包む三百の馬場勢は、鬨をつくって敵陣のまっ唯中へ斬り込んだ。……散開していた敵は小勢とみて左右から押し挾み、退路を断って攻めたてたが、馬場勢は巧みに応戦の兵を残しつつ、前へ前へと先鋒の道をひらいた。大助は高折又七郎にひき添って中核の先頭にいた。彼は噛みつくような眼で、じっと壕の架橋を睨みながら前進した。挾撃してくる敵兵も、それと斬りむすぶ味方の兵もない、ただ架橋だけを睨みながらぐんぐんと前進していた、……ところが壕まで二段ばかりの処へ来たとき、敵は馬場隊の目的がなんであるかに気付いたのであろう、城門のあたりへ敵兵がとびだしてきたと思うと、手に手に斧や鉞をとって橋を破壊しはじめた。