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いちにんならじ

一人ならじ

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,312 字 · 21 页

青空文庫

五

五

お弓は十七歳といったが、上背のある、すんなりと伸びたからだつきはずっと年長けてみえる。つややかに黒い余るほどの髪をむぞうさに括って背へ垂れ、帯も布子も粗末なものを着けてはいるが、頬から顎へのひき緊まった線といい、眉つき唇もとに凛としたものがあって、なかなか下人の生れとみえぬ人品があらわれていた。

「……お待ちなさい」

大助は娘が挨拶をしてさがろうとするのを呼び止め、

「はなしがある、そこへお坐りなさい」そう云って源八にはさがれと命じた。

二人だけさし向いになってから、大助はなお暫く娘のようすを見まもっていたが、やがてしずかな声で口をきった。

「……あなたは源八の姪だというがそれは嘘でしょう」

「……まあ」

「あなたは東堂の初穂どのだ、そうではないと云えますか」

娘はふいに蒼ざめ、大助を見あげてなにか云おうとした。しかし唇がふるえるだけで言葉は出なかった。

「……あなたとの婚約は破談になった。ここへ来られた気持はおよそ察しがつくし、またありがたいとも思うが、武家の作法としてゆるされることではない。お志だけはお受けしますが帰ってください」

「いいえ、……」

娘はそっとかぶりを振った。