轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
いちにんならじ
一人ならじ
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,312 字 · 21 页
「実はわたくしは、幼少の頃から、――武家に生れた男子の命は御主君のものである、と父に申し聞かされておりました。はじめから一命は御主君に捧げてございますので、自分には死ぬべき命はない、生きぬいてお役にたつことが御奉公であると考えております。ずいぶんわかりきったことで、いまさら口にすべきではなかったのですが、……」
どうにも問い詰められて致方なく云ってしまった、まことに恥じいった次第ですと訥々として述べた。いかにもあたりまえ過ぎる言葉で、口にだして云うのは寧ろおとなげ無くさえある。しかし舎人助はなぜかしらん感動した。……そのあたりまえ過ぎる覚悟は、「生きてまいりたい」という言葉へひとすじにつながっている、理窟なしの、ごく単純に割り切った、性根とでもいうべきものが舎人助をうったのだ。彼はつくづくと大助の顔を見まもっていたが、やがてそっと頷きながら云った。
「……わかった、ではおれも一緒に、お役に立つまで生きてまいろう」
取って返されたような言葉なので、大助はもういちど顔を赤らめながらもじもじと膝をかたくした。
川中島に出陣した甲越両軍は、その年八月から九月へかけて前後八回はげしく戦ったが、どちらも決定的な勝利を得るに至らず、九月十日の合戦をさいごに、両軍とも陣をひいて郷国へ帰った。