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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
それらの滑かな表面には沢山の黒い斑紋が現れていた。指紋をはっきりさせるために黒い粉をふりかけてあったのだ。
「三千子さんは随分おしゃれだったと見えて、化粧品の種類は驚く程あった。手の化粧品や爪磨き粉、やすり、バッファーなんかも一通りそろっていた。だがその中で、指紋のよく出ているのはこれだけで、あとは容器の表面がザラザラしていたり、紙製だったり、滑かなものでも、大部分は指紋がちっとも残っていないので役に立たない。鏡の表面だとか抽斗の金具も調べたけれど、掃除してしまったあとだった。だがこれだけあれば証拠品としては十分過ぎる位だ」
明智は容器を一つ一つ、つまみ上げて、大切相に並べ替えて行った。
「過酸化水素キュカンバー、緑の水白粉、練白粉、花椿香油、過酸化水素クリーム……みんな平凡だな、和製の余りお高くない品ばかりだ。それに三千子さんはどうも無定見に手当り次第の化粧品を集めている。上品な趣味じゃないね。だが、こいつはポンピアンの舶来だ。といって大して高級品でもないけれど、脂肪の強いクリームだな」
明智はその最後の品を、何か楽しげにいつまでも玩んでいた。
「それだけは指紋がついてない様ですね」