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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

紋三はふと気がついて尋ねた。

「外側はふいた様に綺麗になっているがね、ソラ御覧、中のクリームに、こんな完全な指の跡がついているから」

明智はそういって、いたずら小僧みたいなズル相な表情をした。

最後の一品は桃色の吸取紙であったが、それには三千子の指紋がある外には、別に注意すべき点もなかった。沢山の文字を吸取った跡が、重なり合ってついていたけれど、皆不明瞭で、とても読みとることは出来なんだ。

「サア、これで僕の発見しただけのものは、すっかり御目にかけた。今度は君の方の話を聞こうじゃないか、昨夜の話を」

明智は卓上の品々を手文庫の中へしまいながら紋三を促した。

「イヤ駄目ですよ」紋三は頭をかいた。「あなたが知っている以上のことは何もないのです」

彼は昨夜山野夫人達がいつの間にか内の中から消えてしまったことを手短に話した。

明智はその不思議な事実を、一向驚きもしないで、興味のない顔で聞き流した。そして、ふと何か思いついた様に、突然まるで違ったことを尋ねた。

「三千子さんは血色のいい方だったかい。写真ではよく分らないが、どっちかといえば赤味がかったつやつやした顔じゃなかったの?」