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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

吾妻橋を渡り切ったところに交番があって、赤い電燈の下に一人の正服巡査がぼんやりと立番をしていた。それを見ると、彼はいきなりそこへ走りだし相にしたが、ふとあることを考えて踏み止まった。今警察に知らせてしまうのは、余り惜しい様な気がしたのだ。彼のこの尾行は、決して正義のためにやっているのではなく、何かしら異常なものを求める、烈しい冒険心に引きずられているに過ぎないのだった。もっと突き進んで行って、血みどろな光景に接したかった。そればかりか、彼は犯罪事件の渦中に巻込まれることさえ厭わなかった。臆病者の癖に、彼は一方では、命知らずな捨て鉢なところがあった。

彼は交番を横目に見て、少し得意にさえなりながら、なおも尾行を続けた。一寸法師は大通りから中の郷のこまごました裏道へ入って行った。その辺は貧民窟などがあって、東京にもこんな所があったかと思われる程、複雑な迷路をなしていた。相手はそこを幾度となく折れ曲るので、ますます尾行が困難になるばかりだ。紋三は交番から三町も歩かぬ内にもう後悔し始めていた。

片側は真暗に戸を閉めた人家、片側はまばらな杉垣で囲った墓地の所へ出た。