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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
誤解
針金を握って足を離すと、ハッと思う間にツルツルと五六間滑った。針金がピュウンとうなって、煙突が弓の様に曲った。
針金が手の平に食い入って、鑢の様に骨をこすった。畸形児は半も滑らぬ内に、痛さに耐え難くなった。もう針金を握る力がなかった。ふと下を見ると、そこの空地にはいつの間にか五六人の人が空を見あげて立騒いでいた。たとい向うまで滑りついたところでもう逃亡の見込はないのだ。「駄目だ」と思うと指が伸びた。一瞬間、畸形児の目の前で世界が独楽の様に廻った。
墜落した一寸法師は、そのまま気を失った。空地にいた人達が声を上げてそのまわりに馳せ寄った。
誤解
小林紋三は明智の指図に従い、表の方の窓を開いて、大声に怒鳴った。そしてそこに見張りをしていた刑事が駈出すのを見送ると、一瞬間、ぼんやりと突っ立っていた。明智の跡を追って屋根に上ったものか、ここに止まって山野夫人の介抱をしたものかと迷ったのだ。夫人は彼の足許にうつ伏して死んだ様に身動きもしない。よく見れば細かく肩をふるわせて泣き入っていた。襟が乱れて乳色の首筋が背中の方までむき出しになり、その上を夥しいおくれ毛が這廻っている。