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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
屋根の上の騒ぎも段々遠ざかり、階下の老婆はどうしたのか姿を見せず、そのさ中に、異様な静寂が来た。世界が切離された感じだった。
「奥さん」
紋三は夫人の肩に手をかけて低い声で呼んだ。すると突然夫人が、起き上って叫び出した。
「私です。三千子を殺したのは私です。お巡りさんにそういって下さい。小林さん、お巡りさんの所へ連れて行って下さい」
青ざめた顔が涙にぬれて、脣が醜く痙攣した。
「イエ、その前に、家へ連れて行って下さい。私は家へ帰らなければならないんです。サア、早く早く、小林さん」
彼女は紋三の腕にすがる様にしてわめいた。充血した目が人の来るのを恐れて、キョトキョトあたりを見廻した。
紋三も興奮のために青ざめていた。不思議な戦慄が背中をはった。なめてもなめても脣が干いた。
「奥さん逃げましょう」
彼の声はかすれ震えていた。
「早く、家へつれて行って」
「僕と、僕と一緒に、逃げましょう」
百合枝は激情の為に立上る力もなかった。紋三の肩に縋りついては、くずおれた。彼は夫人の狭い胸を抱く様にして、やっと階段を降りることが出来た。降りたところに耳の遠い老婆がポカンと立っていた。