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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
すると、墓地の向側に庫裏らしい建物があって、今丁度そこの入口を開いて、たれかが中へはいるところであった。その時、戸の隙間から漏れる光に照しだされた人影は、疑いもなく不恰好な一寸法師に相違なかった。人影が庫裏の中に消えると、戸締りをするらしい金物の音がかすかに聞えた。
もう疑う余地はなかった。一寸法師は意外にもこの寺に住んでいるのだ。紋三はでも念のために杉垣の破れをくぐって庫裏の近くまでゆき、暫くの間見張り番を勤めていた。中では電燈を消したらしく、少しの光も漏れず、又聞き耳を立てても、コトリとも物音がしなかった。
その翌日、小林紋三は十時ごろまで寝坊をした。近所の小学校の運動場から聞えて来る騒がしい叫び声にふと目をさますと、雨戸の隙間をもれた日光が、彼の油ぎった鼻の頭に、まぶしく照りつけていた。
彼は寝床から手を伸して、窓の戸を半分だけ開けて置いて、蒲団の中に腹ばいになったまま、煙草を吸い始めた。
「昨夜は、己はちとどうかしていたわい。安来節が過ぎたのかな」
彼は寝起きの口を、ムチャムチャさせながら、ひとり言をいった。
総てが夢の様だった。お寺の真暗な庫裏の前に立って、中の様子をうかがっている内に、段々興奮がさめて行った。