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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

屋根つきの東屋風の共同ベンチの側を通りかかると、その奥の暗いところで喧嘩らしい人声がした。この公園の浮浪人共は存外意気地なしで、危な気がないと考えていた紋三は、一寸意外な気がした。で、やや逃げ腰になりながら、すかして見ると、それはやっぱり喧嘩ではなく、一人の洋服姿の紳士が、警察官に引きすえられているのだった。二言三言怒鳴っている内に、紳士はなんなく腰繩をかけられてしまった。二人は無言のまま仲よく押し並んで交番の方へ歩いて行った。紳士は、でも、歩きながら春外套で繩を隠し隠ししていた。真暗な公園には彼等の跡を追う野次馬もいなかった。同じベンチに一人の労働者風の男が、何事もなかったかの様に、ぼんやりと考え事をしていた。

紋三は不規則な石段を上って、ある岡の上に出た。まばらな木立に囲まれた十坪程の平らな部分に、三四脚のベンチが並んで、そこにポッツリポッツリと銅像か何かの様に、三人の無言の休息者が点在していた。時々赤く煙草の火が光るばかりで、だれも動かなかった。紋三は勇気を出して、その内の一つのベンチへ腰をおろした。

もう大分以前に活動館などもはねてしまって、はなやかなイルミネーションは大方消えていた。