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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

けれど、あなたは、そんな無理往生なことをして、それで寝ざめがいいのですか。私はどうしたって、あなたを好きにはなれないんだから」

「ウフフフフフフフ」奇怪な男は気味悪く声を殺して笑った。「私は十年の間待っていたのだよ。あなたは知るまいけれど、私はその長い間あなたのことばかり思い続けて来たのだ。私がどんなに苦しんだか、色々な馬鹿馬鹿しい企てをやったか。今にすっかり白状する。ウフフフフフフ、あなたはきっと驚く。あなたを思っていた男の正体が分ったら、あなたは気絶する程驚くに違いない。だが、今度のことは、何という幸運だったろう。こんなことでも起らなければ、私は一生がい私のこの切ない思いを打明ける折がなかったのだ。サア、詳しいことは、あちらへ行ってから話そう。兎も角、あなたは私についてくる外はないのだ」

男は、そういったまま、自信に満ちた様子で、境内を出て堤の方へ歩いて行った。山野夫人は、彼女自身の意思を失って、別の意思の命令によって動いているかの様に、歯がゆい程従順に男のあとに従った。

三囲神社から半町程上手の堤に沿って、ポッツリと一軒の毀れかかった空家があって、その蔭に隠れる様に、一台の自動車が停っていた。