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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

彼女は腹立たしい様な、一種異様な感じで、ブルブル震えていた。

「だから、安心しているがいいのだ、私さえ怒らさなければ、万事大丈夫なんだ。だが、あなたは今晩どういう口実で内を出たのですか」

男の低い圧えつける様な声が続いた。

「片町まで行って来るといって」

夫人は途切れ途切れに答えた。

「あなたの伯父さん所ですね。じゃ二三時間は大丈夫だ。堤の上にタクシーが待たせてあるから、私と一緒にお出でなさい。二時間もすればきっと返してあげる。何もビクビクすることはない。だが、もしあなたが私の申出を拒絶なさると、飛んでもないことになりますよ。私は一切合切ぶちまけちまう。そうなれば無論私も罪におちるが、あなたは身の破滅だ。生きちゃいられない。だからさ、私のいうことを承知する外はないのだ。飛んだ奴に見込まれたのが不運とあきらめるんだね。サア、時間がないから早くきめて下さい。私はもう待てるだけ待ったのだから」

「あなたが、そんなひどい人だとは思わなかった。悟りすました世捨人の様な顔をしていて、その実恐しい悪党だったのね」夫人は、ため息をついた。「でも、仕様がありませんわ。あのことを秘密にして置いてもらうためには、どんな犠牲だって払わなければ。