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ひとすじのなわ

一条の縄

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,201 字 · 11 页

青空文庫

自分達の周囲には、不幸なものや、恐ろしい目に幾度も幾度も出喰わさなければならなかったものが、ウジャウジャ居るにもかかわらず、此の自分達は選りに選った様に、たった一度の不吉な事にも恐ろしい事にも出会う事なしに過ぎて来たのだと云うことは、どれ程深く彼等の心を感動させた事であろう。

彼は、俺は此上ないお恵みにあずかって居ると思った。彼女も、ほんとに私は運が好い何て有難い事だろうと思った。

そして、二羽は同じ様な歓喜と、同じ様な感謝に満ちて、爪立ち首を勇ましく持ちあげて、向うの杉の枝に座って被居っしゃるお月様に向ってお礼心の羽ばたきをした。

四つの厚い羽根が空気を打つバッサ、バッサ、バッサと云う音と、喉をならす、稍々細く切れぎれな声と、低いうねうねした声とは混り合って、靄のほの白いはるかにまで響いて行ったのである。

所々崩れ落ちて居る畔路を、ときどき踏みそこなって、ころがりそうになったり、大狼狽な羽ばたきをしたりして、先へ先へと歩いて行った雌鴨は、フト何か見つけたらしく小馳りに後戻りして来て、あわただしくクワッ、クワッと叫び立てた。

「オヤ、一寸御覧なさい何だろうかしらん、あすこに光ってるのは……?