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ななかいのじゅうにん

七階の住人

宮本 百合子

「文芸春秋」1926(大正15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,128 字 · 15 页

青空文庫

「どうしたのよ? 一体」

と頻りに柱の釦(ボタン)を押しつけた。

「私、気が遠くなっちゃうわ、おなかがぺこぺこで……」

「おおお、可愛そうに!」

仲間の一人が、真面目な顰面をし、緑色のジャムパアの衣嚢(ポケット)から何か出してやった。

「さ、これでもしゃぶっておとなになさい、美味しいことよ」

誰もがおなかをすかしているので、思わず本気で抓(つま)み出された物を見た。が、一時に足踏をして笑い出した。

「こりゃあ素敵! さ、おしゃぶりなさい。だけど少し塩がききすぎてるに違いないわね、どうも――ハッハッハッ」

手あかだらけの丸い消ゴムをやったり、とったり、騒ぎのところへ、すーっと昇降機が来た。来たが、満員で、隅っこにやっとハンドルを動している若者が、赧い顔をして何か断りらしいことを網戸越しに云った。廊下と昇降機の中とで友達同志が手を振り合う。殆ど止らず昇降機は上った。

「ひどい! もうこうなりゃ覚悟するわ」

金髪の娘が、大袈裟な身ぶりで、裏階子(はしご)を一段おきに駈け登りはじめた。伸子は、朝この階子を歩いて食堂迄登った。そして、よく時間過て閉め出しをくわされ、寄宿舎の向い側の喫茶店で焼林檎をたべた。