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さんねんめ
三年目
山本 周五郎
「雄弁」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,214 字 · 22 页
角太郎は匕首を拾ってお菊の縛を切り放した、友吉はすり寄ってお菊の肌へ手を差入れた、温みがあった、角太郎が手早く包みを解いて、縮緬浴衣を一枚取出した、友吉は眼を瞑って、お菊の濡れた着物を取替えた。それから、包み一つを引寄せ、その上にお菊を俯向けに寝かして、力いっぱい背中を叩きながら、
「お菊、……お菊……お菊」
と懸命に呼び続けた。……角太郎はその間に屋根へとびだして、
「兄哥、おいらあ舟を持って来るぜ、表の銀杏へ繋いでおいたんだ、もしあれが流されていたら、済まねえがおれたちゃ……」
「済まねえなあおれだ、見て来てくれ」
「じゃ分ってくれたんだね……兄哥」
角太郎は振返って泣き笑いをした、「……おらあ鈍な生れつきだ、兄哥にとんだ心配をかけちまって済まねえ、勘弁してくんな」
「角……生きるも死ぬも三人一緒だ、おいらの馬鹿を笑ってくれ」
「おらあ……」
泣き笑いを残したまま、角太郎は屋根伝いに跳んで行った。
そのときお菊が水を吐いた。――しめた。
ぐいぐいと、鳩尾のところを手で揉むようにしながら、なおも背中を叩くうちに、二度、三度とおびただしく吐いたが、やがて低く呻き声をあげながら起上ろうとするようすを見せた。