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さんねんめ

三年目

山本 周五郎

「雄弁」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,214 字 · 22 页

青空文庫

二の二

「どうしてそんなことを訊くんだ」

「だってお菊さんが角太郎さんと御夫婦になってるんだもの、あたしびっくりさせられたわよ」

二の二

「おめえ……」

友吉はぐっと自分を抑えながら、「……あの二人が夫婦になったのを知ってるのか」

「あたしゃこんな稼業をしているので、恥かしいからまだ口はきかないけれど、二人で八幡様の裏に所帯を持っていますよ」

「……八幡様の裏っていうと」

「この先を左へ曲って行けばすぐの、大きな銀杏の木があってその路地の奥、狭いけれど二階造りでちょっと粋な家だわ」

友吉は酔いが醒めてきた、それで呷るように呑んだ。……もうお米の話も耳に入らず、とびだしたい気持を抑えるのが精いっぱいであった。

――やはり本当だったんだ。

ざまあみろという声が、頭の芯で何度も聞えた。……三年まえの春が思い出される、上方へ立つ友吉を鮫洲まで送って来た角太郎は、いよいよ別れるというときになると、愚直な顔に涙をうかべて、

――兄哥、お菊さんはたしかに預かった、どんなことがあっても兄哥の帰るまでは大切に預かっている、どうか安心して行ってくんな。

そう云って泣き笑いをした。

角太郎は友吉より一つ上の二十三だった、腕も達者というほうではなく、男ぶりもぱっとしない、ただ愚直で、間違いのない仕事をするだけが取柄であった。