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さんねんめ

三年目

山本 周五郎

「雄弁」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,214 字 · 22 页

青空文庫

一日中歩き回って、濡れて、疲れて、躰は襤褸切のようにくたくただったが、気持は逆に鋭くなるばかりで、呑んで寝たにもかかわらず、朝まで眠れなかった。

その翌日も一日無駄に終った。

大工建場とか、棟梁の家々を尋ね回ったが、角太郎らしい者はどこでも捜し当らなかった。……雨に濡れ、水の溢れた道を空しく戻りながら、友吉の心はますます棘をもちはじめた。

――ふん、みじめなざまぁどうだ。

自分で自分を罵った。やりきれない気持だった。昨日の宿へ帰ろうとして、八幡前まで来たとき、小料理の軒行燈をみつけた友吉は、誘われるようにその軒をくぐった。……水の不安で客もないらしい、ひっそりした奥から出て来た女が、

「いらっしゃいまし」

と云ったとたんに、

「……あら、まあ珍しい、友さんじゃありませんか」

薄化粧をした顔を驚きでいっぱいにした女、友吉にはちょっと思い出せなかった。

「お忘れになったの、薄情な人ねえ、五郎兵衛町のお店の裏にいたお米ですよ」

「ああ、あのお米ちゃん」

「ようやく思い出したのね、ま、とにかくどうぞ、お二階にしましょうね、ゆっくりしてらしっていいんでしょ」

珍しいのと不思議のたて続けで、あまりいい好みではない二階の小座敷へ案内した女は、酒肴を運ぶ間も惜しそうに話しかける。