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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
一~十一、十六「中央公論」1929(昭和4)年11月号、十二~十五(「戦い」の表題で。)「戦記」1929(昭和4)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,990 字 · 141 页
彼等も亦自分達の食料として取って置いた米さえ差押えられて、軒下に積まさっていながら、それに指一本つけることの出来ない「小作人」だった。
健は両親にともなわれて、村を出た日のことを、おぼろに覚えている。十四、五年前のことだった。――重い妹を負ぶって遊んで来ると、どこか家の中が変っていた。健は胸を帯で十字に締められて、亀の子のように首だけを苦しくのばしていた。
「母、もうええべよ。」と云った。
母は細引を手にもって、浮かない風に家の中をウロウロしていた。父は大きな安坐をかいたまま煙草をのんで、別な方を見ていた。――母は健を見ると、いつになくけわしい顔をした。
「まだ外さ行ってれ!」
父はだまっていた。
健はずれそうになる妹をゆすり上げ、ゆすり上げ、又外へ出た。――半分泣いていた。それから一時間程して帰ってくると、家の中はガランとして、真中に荷造りした行李と大きな風呂敷包が転がっていた。父と母が火の気のない大きく仕切った炉辺にだまって坐っていた。薄暗い、赤ちゃけた電燈の光で、父の頬がガクガクと深くけずり込まれていた。
「早く暮れてければええ……」――独り言のように云った。