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ふしょうのあに

不肖の兄

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页

青空文庫

母の様子から一寸変な暗示を受けて、僕は俄に追求し初めた。敏子は本当に浜地を愛してるのか、浜地は本当に敏子を愛してるのか、そして二人の愛は深いものなのか、その証拠が何かあるか……。

母は自分が過でも犯したもののように、視線を落して低い声で云った。

「キスしたことがあるそうですよ。」

敏子

お前も馬鹿だね。それならそうと、なぜ早く僕に云わないんだ。勿論僕は何にも尋ねやしなかったし、お前から進んで話せもしなかったろうが、然し、母に打明けたくらいなら、僕にだってすぐ打明けていいじゃないか。お前は僕の平常を知りつくしてるから、僕に笑われるかも知れないと思ったろうが、いくら僕だって、処女の恋愛を否定しやしないさ。母がどんな風にお前を問いつめていったか、それを思うと嫌な気がする。――恥しい想像を許してくれよ。――だが、僕だって母を問いつめていった。汚らわしい好奇心の仕業なんだ。

然し、好奇心ばかりじゃなかった。

僕は、前夜のことは酒の上の冗談だと云い、縁談に賛成の旨を説いて、母を漸く安心さしたが、その後で非常に淋しくなった。長年一緒に育ってきて、幼時の親しみをまでそのまま持ち続けてる兄が、妹の婚約する折に感ずる一種の愛惜と寂寥、そういった気持はお前も認めてくれるだろうね。