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ふしょうのあに
不肖の兄
豊島 与志雄
「改造」1925(大正14)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页
なぜこんな文句をここに引出してきたか、お前にはこじつけとしか思えないだろうが、まあ黙って先を聞いてくれよ。
その晩……全く静かな安らかな晩だったね。夕食後、母とお前と僕と三人で茶の間に集って、電燈の光のまわりに黙って坐ってたじゃないか。
「いやに静かな晩だなあ。」
余りしんみりしてきたので、僕は少し気がさして何気なく云ってみた。
すると、意外にも、母はほっと溜息をついた。が言葉はやさしかった。
「ええ、お前が真面目でさえいてくれれば、いつもこうなんですがねえ……。これからは少し落付いてくれなければ困りますよ。」
「落付きますとも、今夜からこの通りに……。」
その時お前は傍で微笑していたね。その幸福そうな微笑を見て、僕は……全く気まぐれなんだが……ユーゴーの詩を読んで聞かしてやった。ランプの光のまわりに一家団楽しているところや、妻や子が主人の帰りを待ちわびてるところや、楽しい夕食の光景や、そういうつつましやかな家庭の幸福をね。それから最後に、あのコペーの詩さ。主人は朝から晩まで板をけずってる、日曜日に金使いもしない、二人の子供は鉋屑の中で遊んでる、お上さんは家の入口で、貯金の胸算用をしながら編物をしてる、一家安隠で商売繁昌だ。