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ふしょうのあに

不肖の兄

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页

青空文庫

酔心地がよかった。そしてつい不調法にも、小唄を口ずさみかけた。だって、いい気持になったんだから仕方がないじゃないか。

それを兄が聞き咎めたのが初まりで、また例の廻りくどい意見になってきた。が僕は知らん顔をしてやった。それがまた兄の気持を害したらしい。

「つまらないものを二つ三つ書きだして、それで芸術家だと納まり返って、ぐうたらな日を送って、羨ましい身分だね。」

「羨ましけりゃあ、あんなちっぽけな会社なんか止しちゃって、兄さんも芸術家になったら……。」

兄も少し酔っていた。が僕もだいぶ酔っていた。

「こないだ、お前が書いたものを読まされて、実に恥しい思いをしたよ。そら、何とかいう題の、淫売婦かなんか出てくる小説さ。僕の会社に、あの雑誌を持ってる男がいて、あなたの弟さんだそうですが実に上手だ、とそう云って僕に読ませるんだ。読んでみて僕は恥しくて、真赤になった。下らないじゃないか。あんなものはもう書くなよ。もっと高尚な、思想的に深みのある、立派なものは出来ないのかね。だから云わないことじゃない、薄汚い女を相手に酒ばかり飲んでるようじゃあ、結局駄目にきまってる。