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ふしょうのあに

不肖の兄

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,889 字 · 39 页

青空文庫

それをどうして僕があの晩、浜地の悪口を云い出したかと云えば、実は兄に対する憤懣からだった。

お前も知ってる通り、僕は兄を余り好かない。兄も僕を好かないらしい。僕達二人は性情や嗜好まで随分違っている。

その二人が、遇然一緒に家で飯を食うことになった。兄が結婚して別居してからは、そういうことが稀だったので、僕は母に御馳走さしてやった。というのは口実で、久しぶりに家で酔ってもみたかったからさ。

そして初のうちはうまくいった。ところが、次第に、お前が静子さんと出かけた後のことだが、僕の気持は妙に苛らついてきた。

兄はだいぶ辛棒して僕の相手をしてたらしかったが、三四本目の銚子から、先に飯を食い初めた。その時話は自然に、お前と浜地との結婚問題に落ちていった。

「だがお母さん、」と兄は笑いながら云ったものだ、「浜地君もこんな酒飲の親友を持ってるようじゃあ、余り信用もおけませんね。」

「でもね、」と母も笑いながら云った、「こんなお友達があってもしっかりしてるところは、尚更豪いじゃありませんか。」

そういう会話を僕は聞き流して、一人で杯を重ねていた。母が吟味してるだけに家の酒はうまかった。