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せかいかいきじつわ「じょぶん」
世界怪奇実話
牧 逸馬
牧逸馬『世界怪奇実話』。同一底本的分册已合并为一书。收入:「世界怪奇実話」序文、ウンベルト夫人の財産、都会の類人猿、肉屋に化けた人鬼、生きている戦死者、運命のSOS、斧を持った夫人の像、海妖、カラブウ内親王殿下、双面獣、モンルアルの狼、消えた花婿、土から手が、ロウモン街の自殺ホテル。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 251,305 字 · 498 页
全船に明あかと灯が点って、ジャズ・バンドはまだ奏楽を続けている。高調子のジャズ、ダンス音楽、いまこの大西洋の両岸で、倫敦と紐育が口笛に吹いている流行の威勢のいい曲が、数千哩を隔てた暗い寒い洋上に次ぎ次ぎに沸き起って、憐れにも華やかに鳴り響いていた。人心を落ちつかせるためにというスミス船長の命令で、音楽部員は必死だったのである。
上甲板の無電室では、主任技師フィリップスが懸命にSOSを放っている。SOSは新しい信号でCQDから変って間もなくだった。
「そうです。そのSOSってやつを打つことです。出来立ての信号ですから使い古されていないで愉快です。これからもあんまりSOSを叩く機会はないでしょうから、この際大いにやりましょう」
楽天家の無電助手ブライドが、こんな冗談を言って笑った。船長もそれを聞いて、
「そう度びたびSOSを打つ機会があってたまるもんか」
と笑った。みんな声を合わせて笑った。好い加減浸水すれば傾斜が止まって、そう訳もなく沈むようなことはない筈だ。そのうちには、航行船の多い海路である、救助船の一隻や二隻は現れるだろうと、その場になっても、まだ戯談を言って笑う余裕が残っていたのだ。