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せそう
世相
織田 作之助
「人間」1946(昭和21)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页
を出ることで、議論の結末をつけることにした。
「じゃ、ごゆっくり」
マダムも海老原がいるので強いて引き止めはしなかったが、ただ一言、
「阿呆? 意地悪!」
背中に聴いて「ダイス」を出ると暗かった。夜風がすっと胸に来て、にわかに夜の更けた感じだった。鈴の音が聴えるのはアイスクリーム屋だろうか夜泣きうどんだろうか。清水町筋をすぐ畳屋町の方へ折れると、浴衣に紫の兵古帯を結んだ若い娘が白いワイシャツ一枚の男と肩を並べて来るのにすれ違った。娘はそっと男の手を離した。まだ十七八の引きしまった顔の娘だが、肩の線は崩れて、兵古帯を垂れた腰はもう娘ではなかった。船場か島ノ内のいたずら娘であろうか。(船場の上流家庭に育った娘、淫奔な血、家出して流転し、やがて数奇な運命に操られて次第に淪落して行った挙句、十銭芸者に身を落すまでの一生)しかし、これでは西鶴の一代女の模倣に過ぎないと思いながら、阪口楼の前まで来た。阪口楼の玄関はまだ灯りがついていた。出て来た芸者が男衆らしい男と立ち話していたが、やがて二人肩を寄せて宗右衛門町の方へ折れて行った。そのあとに随いて行き乍ら、その二人は恋仲かも知れないとふと思った。