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せそう
世相
織田 作之助
「人間」1946(昭和21)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页
家人は階下で熟睡しているらしい。
風が敲くにしては大きすぎる。といってこんな夜更けに客が来るわけもない。原稿の催促の電報が来たのだろうか。が、近頃の郵便局は深夜配達をしてくれる程親切ではない。してみれば押込強盗かも知れない。この界隈はまだ追剥や強盗の噂も聴かないが、年の暮と共に到頭やって来たのだろうか。そう思いながら、足袋のコハゼを外したままの恰好で、玄関へ降りて行った。
そっと戸を敲いている。
「電報ですか」
「…………」返辞がない。
家の三軒向うは黒山署の防犯刑事である。半町先に交番がある。間抜けた強盗か、図太い強盗かと思いながら、ガラリと戸をあけると、素足に八つ割草履をはいた男がぶるぶる顫えながらちょぼんと立ってうなだれていた。ひょいと覗くと、右の眼尻がひどく下った文楽のツメ人形のような顔――見覚えがあった。
「横堀じゃないか」小学校で同じ組だった横堀千吉だった。
「へえ。――済んまへん」
ふとあげた顔を面目なさそうにそむけた。左の眼から頬へかけて紫色にはれ上り、血がにじんでいる。師走だというのに夏服で、ズボンの股が大きく破れて猿股が見え、首に汚れたタオルを巻いているのは、寒さをしのぐためであろう。