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せそう
世相
織田 作之助
「人間」1946(昭和21)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页
「はいれ。寒いだろう」
「へえ。おおけに、済んまへん。おおけに」
ペコペコ頭を下げながら、飛び込むようにはいり、手をこすっていた。ほっとしたような顔だった。たぶん入れて貰えないと思ったのであろう。もっともそれだけの不義理を私にしていたのだった。
横堀がはじめ私を訪ねて来たのは、昭和十五年の夏だった。その頃私の著書がはじめて世に出た。新聞の広告で見て、幼友達を想いだして来たと言い、実は折入って頼みがある。自分は今散髪の職人をしているのだが、今度わけがあってせんに働いていた市岡の理髪店を暇取って、新世界の理髪店で働こうと思う。それについて保証人がいるのだが、自分には両親もきょうだいも身寄りもない、ついては保証人になって貰えないだろうかと言うことだった。私はすぐ承知したが、それから二月たたぬ内に横堀は店の金を持ち逃げした。孤独の寂しさを慰めるために新世界とはつい鼻の先にある飛田遊廓の女に通っていたが、到頭金に詰ったらしかった。保証人の私はその尻拭いをした。
ところが、一年ばかりたったある日、尾羽打ち枯らした薄汚い恰好でやって来ると、実はあんな悪いことをしたので「部屋」