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せそう

世相

織田 作之助

「人間」1946(昭和21)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页

青空文庫

到頭その機会が来た、自分は今までの世の中に一人ぼっちだという寂しさからつい僻みが出てやけも起したが、これからは例え二階借りでも世帯を持つのだから、男になって働く覚悟だ、ついては結婚の費用に……と、百円の無心だった。女は何をしている人だ、仲居をしている。どこで。南で。南の何という店だ。大阪の南の料理屋の名前なら大抵知っているのでそう訊いたが、横堀は詰って答えられない。細君になるという人の勤め先を知らないようでは、結婚の費用は貸してあげないと言うと、じゃ今夜は終電車もないから泊めてくれと言う。

翌朝横堀が帰ったあとで、腕時計と百円がなくなっていることに気がついた。それきり顔を見せなくなったが、応召したのか一年ばかりたって中支から突然暑中見舞の葉書が来たことがある。……

そんな不義理をしていたのだが、しかし寒そうに顫えている横堀の哀れな復員姿を見ると、腹を立てる前に感覚的な同情が先立って、中へ入れたのだ。横堀の身なりを見た途端、もしかしたら浮浪者の仲間にはいって大阪駅あたりで野宿していたのではないかとピンと来て、もはや横堀は放浪小説を書きつづけて来た私の作中人物であった。