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せそう

世相

織田 作之助

「人間」1946(昭和21)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,089 字 · 64 页

青空文庫

「さアないかないか」

もう一度早い目に大阪へ張った。が、横浜だ。

「――さアないかないか」

残っていた五円札を京都の上に載せようとすると、

「五円はだめだ。十円ないのか。十円で五十円だ」と断られた。

しかしポケットにはその五円札一枚しかなかったのだ。すごすご立去って、阿倍野橋の大鉄百貨店の横で、背負っていた毛布をおろして手に持ち、拡げて立っていると、黙っていても人が寄って来ていくらだときく。百円だというと、買って行った。隣で台湾飴を売っていた男が、あの毛布なら五百円でも売れる、百円で売る奴があるかというのを背中で聴きながら、ホテルの向い側へ引き返し、大阪一点張りに張ってみたが、半時間もたたぬうちに百円が飛んでしまった。

帰りの道は夏服の寒さが一層こたえた。が、帰りの道といってもどこへ帰ればよいのか。大阪駅以外にはない。残っていた五円で焼餅を一つ買い、それで今日一日の腹を持たすことにした。駅の近所でブラブラして時間をつぶし、やっと夜になると駅の地下道の隅へ雑巾のように転ったが、寒い。地下道にある阪神マーケットの飾窓のなかで飾人形のように眠っている男は温かそうだと、ふと見れば、飾窓が一つ空いている。