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アラスカのひょうが

中谷宇吉郎紀行集 アラスカの氷河

中谷 宇吉郎

中谷宇吉郎『中谷宇吉郎紀行集 アラスカの氷河』。同一底本的分册已合并为一书。收入:アラスカの氷河、永久凍土地帯、黒い月の世界、白い月の世界、満洲通信、アメリカの旅、アラスカ通信、ウィネッカの秋、ウィネッカの冬、ツンドラへの旅、ネバダ通信。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 122,039 字 · 248 页

青空文庫

昔の温度に帰ったので、氷も安心して、その本性を出すのかもしれない。

けっきょく標本を日本まで持って帰ることになり、特大の魔法瓶を用意し、その中に氷とドライ・アイスとを入れて、飛行機に積みこむことにした。魔法瓶は、断熱のほうは安心であるが、こわれる心配がある。それに横にすると、冷たい空気が流れでるので、立てたままずっと自分で、飛行機の座席の横にかかえてこないと、ちょっと心配である。だいたい鎌倉時代くらいの氷を、グリーンランドの氷冠の深部から掘りだして、それをここまで持ってきたわけである。いまさら融かしてしまうわけにはいかない。

いちばん困ったのはドライ・アイスの補給である。たいていの店では、五十ポンドの函が最低単位になっていて、二ポンドは売ってくれない。しかし事情を話すと、アメリカ人は変ったことが好きだから、分けてくれるか、あるいは無料でくれた。この厄介な荷物をもって、沙漠の真中にあるユタ大学に三日、サンフランシスコに一日、ホノルルでまた一泊して、外観上は悠々たる旅を続けて、日本まで持ってきた。東京までくれば、三鷹の運輸省の低温室にあずけられるから、あとは心配ない。