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まるのうち

丸の内

高浜 虚子

「東京日日新聞」1927(昭和2)年3月15日~31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,875 字 · 46 页

青空文庫

きょうは日曜である。しかも雪が降っている。時計はさっき十二時を打ったが、精養軒には余り客が無く、ボーイも女給も手持無沙汰なのであろう。そんな事をして遊んでいるものと見える。

そういうわが事務所も休みである。或用事があって私一人出て来ているのである。どの部屋の窓のカーテンも皆下りてひっそり閑としている。たま/\わが隣室にはタイプライターを打つ音が響いている。この隣室にもタイピスト一人出て来ているものかも知れぬ。

日曜の丸ビルは淋しい。エレベーターも半数は休んでいる。その動いている半数のエレベーターにも乗る人は少ない。

売店にも客は少ない。

食堂も同様である。かしこに一人、ここに一人という風に陣取っているだけだ。それも多くはそとから来た客だ。元来ここの食堂の客はこの丸ビルに通勤している事務員が多い。それに又近所の会社の勤め人が多い。日曜日はそれ等の客がげっそり減るので淋しい。

九階の精養軒でボーイや女給が雪を投げてひまをつぶしているのも道理ある事である。

丸ビルが淋しいばかりでなく、東京駅も淋しい。遠隔の地方から来る客、又遠隔の地方に旅する客には変りは無かろうが、近郊から来る通勤客は皆無だ。