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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

だが?

おとなしくしていて養子にでもやられては、お艶も刀もそれきりになってしまう。それではたまらぬと、そこで兄藤次郎にはすまぬと影に手を合わせながら、わざと種々の放埓に兄を怒らせて、こうして実家へもよりつかずに繋累を断った栄三郎ではないか。

律気な兄者人はどんなに怒っていることであろう!

あの五十両もかわいいお艶のためとはいえ、何もあんなことをしなくてもまともな途で才覚のつかないわけではなかったが、あれも兄へのあいそづかし――いまも胸底ひそかに兄に詫びてはいるもののそれもこれ、一心を賭して乾坤二刀をひとつにせんがためではなかったか?

お艶! 恨んでくれるな。今にきっと探しだして助けるから。

こう低声に口走った栄三郎が、なんとなく再び闘機の近いことをひしと感じて、カッ! と血のさかのぼった眼を見ひらいた時、うらの寺にまのぬけた木魚の音が起こった。

「若様、お茶がはいりましたが――」

梯子段の中途にお兼婆さんの声がした。

「お艶や! お艶や」

と、あたりをはばかる声で、お艶は午後のうたた寝からさめた。

気がつくと夢を見ていた。

自分の身が人魚と化して、海底の岩につながれている。