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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
「こらッ、お藤! 誰のさしがねで刀のさまたげをしたか、それを吐かせ!」
叫びざま左手に髪を巻きつけて引きずりまわす――が、この狂乱の丹下左膳に身もこころも投げかけているかのように、お藤は蒼白の顔に歯を食いしばって、されるがまま、もう声を立てる気力もないのか、振りほどけた着物をなおそうともしないで、ただがっくりと左膳の脚にとりすがっている。
この日ごろの打擲に引きむしられた頭髪がちらばって、部屋じゅうに燃える眼に見えぬ執炎業火。
あまりの態におさよはすべるように逃げて行ったが、来てみて、思った以上の狼藉に胆を消した源十郎、お藤に対してももはや黙っていられないと駈けあがろうとした時!
阿修羅王のごとく狂い逆上した左膳が、お藤の手をねじあげて身体中ところ嫌わず踏みつけるその形相に! 思わずぎょっとして尻ごみしていると、陰にふくんだ声が惻々として洩れてきた。
「殿様かい?」
お藤が、左膳の足の下から、顔をおおう毛髪を通して源十郎へ恨みの眼光を送っているのだ。
「へん! 殿様がきいてあきれらあ! あたしの念を届けてやるからそのかわり隙をうかがってお艶と見せて舟へ転げこんでくれ――あとのことは悪いようにはしないから、なんてうまいことを言ったのはどこの誰だい」