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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

ポトン! ポトンポトン!

苫をはぐって一艘の舟から現われた泰軒は、お艶のその後のとらわれの次第、場所、そしてそこに乾雲丸をもつ隻眼隻手の客丹下左膳がひそんでいることなどを話したのち、せきこんで栄三郎様は? とたずねると、泰軒は平然と、かれは田舎にいるから二人この足で押しかけよう――こう言っていきなり歩き出したのだった。

貧乏徳利をさげた乞食と服装ふりかまわぬ若い女……それは奇妙な道行きであった。

で。

さっきから無言に落ちて、あらぬ空想に身をまかせていたお艶が、怒りと悲しみに思わず眼を上げて薄明のあたりを見まわすと、

「あれ! あれが仕置き場だ」という泰軒の声。

「まあ! こわい……」

「はははは、だから、急ぐとしよう」

が、泰軒はぴたッと立ちどまって、うしろのお艶をかばうようにかまえた。

田圃にはさまれた杉並木。

ほのかに白い道のむこうに、杉の幹にはりついて黒い影がある。

と、お艶の忘れられない若々しい詩吟の声が、ゆく手の半暗をさいて流れて来た。

「日暮、帰りて剣血を看る」

坤竜丸、夜泣きの脇差の秘告であろうか。

平巻きの鞘が先へさきへと腰を押すような気がして、ただじっとしていられなかった栄三郎が、明けから江戸の町をあるくつもりで千住街道を影とふたりづれで小塚原の刑場へまで来ると――。