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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
た。
「もうわしがおっては邪魔であろう。これ以上ここらにうろうろすれば憎まれるだけだ。犬に食われんうちに退散退散」
こう粋をきかして泰軒が立ち去ったのち、二人は、あれでどれほど長く玉姫神社の階段に腰をかけて語り合っていたものか――気がついた時は、陽はすでに斜めに昇って、朝露に色を増した青い物の荷車が、清々しい香とともに江戸の市場へと後からあとから千住街道につづいていた。
それからまもなく。
泰軒のいる首尾の松へも近いというところから、三人で探して借りたこの家であった。
たらぬがちの生活にも、朝な朝なのはたきの音、お艶の女房ぶりはういういしく、泰軒は毎日のように訪ねて来ては、その帰ったあとには必ず小粒がすこし上がりぐちに落ちている。大岡様から与えられた金子をそれとなく用立てているものであろう。栄三郎は押しいただいて使っていたが、そのくせいつも顔が会っても、かれも泰軒もそれについては何一ついわない。殿方の交際はどうしてああさっぱりと行きとどいているのだろうと、お艶は涙のこぼれるほどうれしかった。
お艶のはなしによって。
丹下左膳が、母おさよの奉公先なる本所法恩寺まえの旗本鈴川源十郎方の離庵にひそんでいることがわかった。