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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

それッ! という忠相の眼顔にこたえて、大作もただちに追っ手に加わった。

「この雑踏に抜きゃあがるとは、無茶な野郎もあったもんですね」

「掏摸だそうですよ。なんにしても人さわがせなやつで」

あとには、市の人出が一面にざわめいて、そこにもここにも立ち話がはずんでいる。

忠相も口をだした。

「掏摸か。それにしても道中姿は珍しいな」

「へえ。あれがあの輩の手なんで……一つまちがえばその足で遠国へずらかろうという――」

「なるほどな」

人品卑しからぬお侍だが、どこの誰とも知らないから皆気やすに言葉をかわしている。

「なんでもお若いお武家とかの袂へ悪戯をするところを感づかれて、すんでのことでつかまろうとしたのを、まあ奴にとっちゃあこの人混みを幸に暴れだしたんだそうで――とにかく、えらい逃げ足の早え野郎でごぜえます」

忠相は、首を振って感心してみせた。

「袂にわるさをしたと申して、何か奪ったのであろうがな」

「そいつあ知りませんが、なんにしてもあんなけだものは寄ってたかってぶちのめしてさ、沢庵石でも重りにして大川へ沈めをかけるのが一番でさあ。南町に大岡様てえ名奉行が目を光らせていらっしゃるのに、そのお膝下でこの悪足掻だ。