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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

「掏摸? 誰が掏摸じゃ?」

「は? あの男――」

「あれは掏摸ではない」

「すると巾着切りで? それともちぼ……」

「たわけめ。同じではないか」

「恐れ入りましてござります」

「なあ大作。他人の懐中物を機をもって掠めとるを掏摸と申す」

「は」

「機によって人の袂に物品を投ずる――こりゃすりではあるまい。きゃつはある者の依頼を受けて、あの人の袂に封書を投げ入れたのじゃ。よって越前、かの町人を掏摸とは呼ばぬぞ」

「あの、手紙を? なれど御前、どうしてそのようなことがおわかりになりまする?」

と眼を円くしている大作を無言にうながして、忠相はしんから愉快そうに、左膳の書をのんだふところをぽんと一つたたいて歩き出した。

「ははあ。なるほど委細そこに!」大作は自分の胸を打つ真似をして、

「いや、さようでございましょうとも! さようでございましょう!」

感に耐えて首を振りながらお供につづこうとすると、忠相はぼんやりと立ちどまって、いま栄三郎のはいって行った露地の口を見守った。

狭い裏横みち。

角にささやかな空地。

材木が積んであって、子供が十四、五人がやがや遊んでいる。

空高く、陽は滋雨のごとく暖かだ。