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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

眼どおり許す――といわんばかり。

プッ! と吹きだしそうになるのを、喜左衛門と鍛冶富、互いにそっと肘で小突きあってこらえているうちに、かたわらの源十郎が威儀をただして、しんみりとこんなことを言い出した。

「他人の空似とはよく申したものでおさよ殿は、死なれた拙者の母御に生き写し……よく瓜を二つに割ったようなというが、これはまた割らんでそのまま並べたも同然――なあ、孝行のしたい時分には親はなし、さればとて石に蒲団も着せられず……こうしておさよどのを眺めていても、源十郎、おなつかしさにどうやら眼のうらがあつくなるようだ」

と源十郎、芝居めかして、しきりに眼ばたきをしている。

煙にまかれて、喜左衛門と鍛冶富は、ぽかんとしたまま帰ってゆく。

「驚きましたね、喜左衛門どん」

「いや、おどろいたね、富さん」

「一体全体どうしたんでごわしょう? へっへ、まるで女隠居。ふたりとも壮健にて祝着至極……なァんかんと来た時にあ、テヘヘ、あっしぁ眼がくらくらッとしたね、じっさい」

「まあさ、殿様のおっしゃることにぁ、おさよさんが死んだ母御によく似ているから、ほんとの母と思って孝行をつくしている――てんだがわしぁどうも気のせいか、ちっとべえ臭えと思う」