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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
「それからあの、栄三郎が命がけでほしがっているものが――」
「うむ、うむ! か、刀であろうが? なれど、おさよどの、あれは、あれは左膳が……」
「ですけれど殿様」
にじり寄ったおさよが、何事か源十郎にささやいたが、その咽喉仏が上下に動き終わった時、鈴川源十郎、思わずアッと驚愕した――とたんに!
ぬっと障子に人影がさして怪物丹下左膳のしゃがれ声。
「おいッ! 源十ッ! 八丁堀が参った。また一つ、剣の舞いだぜ」
と! うわあッ! というおめきが屋敷の四囲に!
御用ッ!
御用ッ! 御用ッ!
と声々がドッとわき起こるのを耳にした鈴川源十郎が、障子を蹴開いた面前に、独眼隻腕の丹下左膳、乾雲丸は火事装束の五人組に奪い去られたとあって、普通の大小だが、左剣手だけに右腰にぐっと落とし差しのまま、かた手を使ってその上から器用に帯を結びなおしているところ。
縁の上下に、源十郎と左膳、さぐるがごとき眼を見合ってしばし無言がつづいた。
山雨まさに到らんとして、風楼に満つ。
左膳は、
何ごとか戸外にあわただしいようすを感じて、そっと離室を忍び出た拍子に、ちらと垣根のむこうに動く捕吏の白襷を見つけたので、そのまま、塀からそとの往来に突き出ている欅の大木に猿のごとくスルスルとよじのぼって下をうかがうと……。