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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

ははははは」

と碁石を鳴らしていどみかけた忠相。何を思ったか今度は急に小さな声でひとりごとのようにいい出した。

「東照宮どの、ときの奉行に示して曰く、総じて奉行たる者あまりに高持すれば、国中のもの自ら親しみ寄りつかずして善悪知れざるものなり。沙汰という文字は、沙に石まじり見えざるを、水にて洗えば、石の大小も皆知れて、土は流れ候。見え来らざれば洗うべきようもなし。これによりて奉行あまりに賢人ぶりいたせば、沙汰もならず物の穿鑿すべきようもなし――と。とかくこの奉行のつとめは厄介なものじゃよ、ははははは、蒲生、察してくれ」

蒲生泰軒、この世に生をうけはじめて、人のまえに頭をさげたのだった。

碁盤をまえに、大岡忠相はまた誰にともなく言葉をつづける。独語のあいだにそれとなく意のあるところを伝えようとするかれのこころであった。

「またのとき、東照宮家康公、侍臣にかたって曰く――いまどきの人、諸人の頭をもする者ども、軍法だてをして床几に腰を掛け、采配を持って人数を使う手をも汚さず、口の先ばかりにて軍に勝たるるものと心得るは大なる了簡違いなり、一手の大将たる者が、味方の諸人のぼんのくぼを見て、敵などに勝たるるものにてはなし……これは軍事のおしえじゃが、和時における奉行の職務は、すなわち、邪悪を敵とする法のたたかいである。