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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
と、泰軒、首をひっこめてあたまをかきながら、
「それもそうだが、はじめに黒の一石をわが有にしたそっちの石も、つまり見事な男ぶり……いやなに、石振りではないはずだぞ。虧けとる、ハッハッハ右が欠ける」
「お! そうだったな。眼糞鼻糞を笑うのたぐいか――しからば、これはどうだ?」
忠相はこういって、石入れの底のほうから欠けた黒の石を取り出して黒団の真ん中へ入れた。
「この不具の石、名もところも素姓も洗ってある。水にて洗えば土は流れて、石の大小善悪もすべて知れ申し候……じゃ、サ、泰軒、いかがいたす?」
迫るがごとき語調とともに、碁によせて事を語る越前守忠相。
奉行なりゃこそ、そうしてまた泰軒が私交の親友なればこそ、こうして公私をわけながら一つに縒って、何もかも知りつくした二つの胸に智略戦法の橋を渡す――虚々実々の烏鷺談議がくりひろげられてゆくのだった。
泰軒のかげに隠れたお艶は、わからないながらにどうなることかと息をこらしている。
昨暮、あさくさ歳の市の雑踏で。
丹下左膳がつづみの与吉を使って諏訪栄三郎へ書き送ったいつわりの書状……それを栄三郎が途におとしたのを拾いあげた忠相は、第一に文字が左手書きであることを一眼で看破したのだった。