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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

うら淋しいながらに、ちょうど上り下りの旅の人があわてて宿をとる刻限とて、客引きの声もかしましく、この奥州街道に沿う町にもさすがに夕ぐれはあわただしい。

よごれた白壁。檐の低い瓦屋根のつづき。取りこむのを忘れた、色のさめた町家の暖簾、灯のにじむ油障子。馬糞に石ころ……何をひさぐ店か、和田屋と筆太に塗ったここらでの老舗らしい間口の広い家――そういったものが、迫りくる暮色のなかに雑然蕪然と押し並んで、立枯れの雑木ばやしを見るような、まことに骨さむい景色……。

投入れのひからびている間の宿。

与吉が、柄にもなくこんな句を思い出していささか悵然としながら、あの乞食先生はどうしたろう? さぞ今ごろは泡をくらってこの与吉を探しているに違えねえ、ざまア見ろ! と心中に快哉を叫んだ時、廊下に面した障子が開いて人がはいって来た。

「恐れ入りますが、お一方お相宿を願います」という番頭の挨拶にギョッ! とした与吉が振り向いてみると、越後の毒消し売りがひとり荷を抱えて割り込んで来ている。

これで与吉はすこし気を悪くしたが、それでも、婢が晩めしを運んで来て給仕をする。

「姐さん、この辺に飯盛はいねえのかえ」